LIV Golf(リブゴルフ)、連邦破産法11条を申請:資産の2倍に達する負債と選手への未払いが発覚

LIV Golf(リブゴルフ)が、2026年9月8日(現地時間)、米ニュージャージー州の連邦破産裁判所に連邦破産法11条(チャプターイレブン)の適用を申請しました。チャプターイレブンは「事業継続を前提とした再建型」の破産手続きであり、即座にリーグが消滅するわけではありませんが、サウジアラビア主導の新興ツアーが抱えていた財務問題が、初めて公式な数字として明らかになった格好です。

実はこの破綻危機、突然降って湧いた話ではありません。半年近く前から兆候が出ていました。まずはLIV Golfがそもそもどんな組織で、なぜここまでの騒動に発展したのか、背景から整理します。

目次

LIV Golf(リブゴルフ)とは何か

LIV Golf(リブゴルフ)は、2021年にサウジアラビア政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」の出資により設立されたゴルフツアーです。「LIV」という名称は、ローマ数字で54を意味しており、大会が3日間・54ホール(通常のツアーは4日間・72ホール)で争われることに由来しています。

最大の特徴は、個人戦とチーム戦を同時に争う独自フォーマットです。ショットガンスタート(全組が同時にスタートする方式)を採用し、予選カットもありません。2026年シーズンは13チーム・57選手が参加し、全14試合を7カ国・4大陸で開催、南アフリカでも初めて大会を実施するなど、規模を拡大してきました。

何より話題になったのが賞金の規模です。1大会の賞金総額は2,000万〜2,500万ドル(団体戦部分を含む)という、既存ツアーとは桁違いの水準でした。さらに参戦した選手には、契約金として数億ドル規模(フィル・ミケルソンやジョン・ラームは2億〜3億ドル規模とも報じられています)が支払われたとされています。

PGAツアーとの2年以上に及ぶ対立

LIV Golf設立当初、PGAツアーは強く反発しました。2022年6月、LIVの招待シリーズに参戦したフィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソンら17人の選手に対し、PGAツアーは即座に出場停止処分を発表。DPワールドツアー(欧州ツアー)も同様に罰金・出場停止で対抗しました。

興味深いのは、LIV側がジャック・ニクラウスに1億ドル以上、タイガー・ウッズにはそれを上回る金額でオファーを出したものの、両者とも断ったというエピソードです。それでも、キャメロン・スミスや前年マスターズ覇者ジョン・ラームなど、現役トップ選手が次々とLIVに移籍していきました。

対立は2023年6月6日、突如としてPGAツアー・DPワールドツアー・PIFの3者が「事業統合の枠組み合意」を発表したことで急展開します。しかし、そこから2年以上が経過した現在も、正式な統合は実現していません。2025年2月にはトランプ米大統領の仲介でホワイトハウス会談が行われましたが、決裂に終わったと報じられています。統合交渉が宙に浮いたまま、今回の破産申請を迎えた格好です。

日本人選手の参戦実績

LIV Golfには、日本人選手も参戦してきました。2022年の開幕シーズンには、当時ジャパンゴルフツアー選手会長だった谷原秀人が「新しいツアーを見てみたい」と自ら志願して出場。木下稜介、香妻陣一朗、稲森佑貴も加わり、日本勢4人が団体戦でチームを結成したこともあります。

中でも谷原は最も継続的に出場し、複数戦でトップ20圏内に入るなど活躍。数戦だけで獲得賞金が6,000万円を超えたと報じられています。当時1ドル135円前後だったことを踏まえると、日本人選手にとってもLIVの賞金水準がいかに破格だったかがうかがえます。

資産を大きく上回る負債の実態

申請書類によると、LIV Golfの資産は1億ドルから5億ドルと見積もられている一方、負債は5億ドルから10億ドルに達するとされています。資産を負債が上回る、典型的な債務超過の状態です。

さらに注目すべきは、債権者リストに選手個人の名前が並んでいる点です。未払い分として、ジョン・ラームに750万ドル、ブライソン・デシャンボーに570万ドル、ダスティン・ジョンソンに550万ドル、キャメロン・スミスに480万ドルなど、複数のトップ選手への支払いが滞っていたことが裁判記録から判明しました。

半年前から出ていた経営悪化のサイン

今回の申請は「突然」ではなく、2026年4月の時点で既に兆候が出ていました。PIFがこの月、2026年シーズン終了をもって主要な資金提供を打ち切ると発表したのが全ての始まりです。PIFは2022年の設立以降、LIV Golfに50億ドル以上を投じてきたとされ、その巨大な資金の蛇口が閉じられたことで、以降数カ月にわたり深刻な影響が表面化していきます。

時系列を追うと、6月にはルイジアナ大会が延期・中止に。8月には、シーズン最終戦として予定されていたミシガンでのチーム選手権が中止され、直前のインディアナポリス大会では賞金が半減、併設予定だったコンサートも中止になるなど、コスト削減の跡が随所に見られました。

さらに8月下旬には、300人を超えるスタッフの大半に対し、9月第1週での雇用終了が通告されました。取引先企業への未払いも表面化し、動画制作会社Fresh Tape Mediaが未払い金1.2億円超(120万ドル超)を巡ってLIVを提訴する事態にも発展しています。ニュージャージー州で開催されたLIV Golf New York(ベドミンストン)大会後、選手への賞金支払いも一部滞っていたと報じられました。

再建に向けた「LIV 2.0」構想

破産申請と並行して、LIV Golf側はロンドンを拠点とする投資会社BC Partnersと組み、「LIV 2.0」と呼ばれる再建案を選手側に提示していたことも分かっています。これは、選手が保有する未払い債権の一部を新生LIVの株式(エクイティ)と引き換えに手放す形で、破産手続きを円滑に進める「事前調整型(プリパッケージ型)破産」の一種です。ただし、初期の提示額は「1ドルに対して数セント」程度だったとも報じられており、選手側の反応は一様ではないようです。

業界に与える影響

今回の破産申請が、今後のゴルフ界にどう波及していくのか、いくつかの論点で整理します。

選手の動向:LIVからの「静かな帰還」

既に複数の有力選手がLIVを離れ、PGAツアーに復帰済み、または復帰準備を進めていると報じられています。象徴的なのは、今回の破産申請の債権者リストにも名を連ねるジョン・ラーム自身が、離脱を検討しているとの観測が出ている点です。「結果にコミットする」形で巨額契約を結んだはずの看板選手が、その契約先の経営破綻によって進退を左右される事態になっています。

統合交渉における力関係の変化

2023年の枠組み合意以降、対等な立場での交渉が続けられてきましたが、資金力という最大の武器を失ったLIV側の交渉力は相対的に低下したとみられます。PGAツアー側にとっては、統合条件を自らに有利な形で進めやすい状況が生まれた可能性があります。

DPワールドツアーとの摩擦という新たな火種

仮に「LIV 2.0」が2027年に始動したとしても、DPワールドツアーは同年の自ツアー日程と重複するLIV参戦選手を排除する方針を維持する可能性が指摘されています。統合交渉の相手はPGAツアーだけではなく、欧州ツアーとの関係も並行して解決する必要があり、再建への道のりは単純ではありません。

「オイルマネー依存モデル」の限界という教訓

LIV Golfは、潤沢な資金力を武器に既存ツアーの選手を次々と引き抜くという手法で急成長しましたが、その資金源が単一のスポンサー(PIF)に極端に依存していたことが、今回の破綻に直結しました。人権問題などを背景とした「スポーツウォッシング批判」もつきまとってきたLIVですが、皮肉にも今回露呈したのは、批判の対象であった巨額オイルマネー自体が「無尽蔵ではなかった」という現実です。

編集長のひとこと資産1〜5億ドルに対し負債5〜10億ドルという数字を見ると、最大で10倍近い債務超過という計算になります。特定選手への契約金の重さ(ラーム選手だけで未払い分が750万ドル)を考えると、そもそも「潤沢な資金があるうちは成立するが、資金の蛇口が止まった瞬間に破綻する」設計だったと言わざるを得ません。PIFが撤退を発表した4月から破産申請まで実に5カ月、その間にイベント中止・人員削減・未払い問題と、教科書通りの経営危機の進行パターンをたどっています。「LIV 2.0」の株式提案が選手にどこまで受け入れられるかが、このツアーが本当に生き残れるかどうかの最初の試金石になりそうです。

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